巨人軍憲章に以下のような言葉がある。
巨人軍はアメリカ野球に追いつき、そして追い越せ
巨人軍憲章
2020年の原辰徳監督はこの言葉を実践しているような気がしてならない。
- 増田大輝の投手起用
- ワンポイント起用
2020年シーズンも様々な采配でファンを魅了する原辰徳監督だが、今回は継投に見る「アメリカ野球を追い越せ精神」を分析してみた。
原辰徳監督の采配は今後のプロ野球に大きな足跡を残すだろう。
「アメリカ野球を真似してるだけ」と批判があった原辰徳監督退任期
近年のプロ野球界ではメジャーリーグを真似しているとされるルールの採用が目立った。
その先駆けとなったものはコリジョンルールだろう。
このルールに関してはそれほど異論もなく、ホームでの危険なプレー抑止の観点から、そこそこ受け入れられたように思う。
しかし、申告敬遠はどうだろうか?
申告敬遠を導入する前には様々な議論があった。
申告敬遠導入に関する賛否
申告敬遠の導入に関しては賛否両論様々だった。
ネット上の意見などを見てみると、以下のような意見が多かったように思う。
- ピッチャーが暴投することによる試合の動きを楽しめなくなる
- 敬遠球を打つというドラマがなくなる
敬遠球を打つことによって、試合が決した場面は過去にあったので、そのような場面がなくなるのを危惧した意見は多かった。
実際に申告敬遠が導入される頃はかなりの反対意見があり、「アメリカの真似ばかりするな」という意見は少なからずあった。
そして、そのような流れの中で、最近議論になりつつあるのがワンポイントの廃止だ。
ワンポイントの廃止の行方
ワンポイントが仮にメジャーで禁止になったら、日本野球はどうするのだろうか?
この問題に今後直面しかねない。
ワンポイントに関しては日本ハムの栗山英樹監督が反対意見を述べているし、野球ファンの間でも反対の意見が少なくない。
また、既存の選手の契約問題にも発展してしまいかねない問題なので、かなり検討が必要だろう。
個人的にはワンポイント制を維持してほしいが、このような「メジャーリーグ野球をどこまで取り入れるか問題」に日本野球は直面している。
このような現状の中で、原監督が2020年やってのけたのは巨人軍憲章にある「アメリカ野球に追いつき、そして、追い越せ」の采配である。
原監督が実践した野手の投手起用は「アメリカに追いつき」を体現した
「アメリカ野球に追いつき」の部分で言うと、2020年8月6日甲子園球場で野手増田大輝がピッチャーとして登板したことが挙げられる。
野手の登板に関してはメジャーリーグならよく行われる作戦で、イチローや青木など日本人メジャーリーガーも経験しているものだ。
この登板は賛否両論あったが、連戦が続く異例の2020年シーズンを戦い抜く上では仕方がない采配だろう。
そして、この采配で原監督は「アメリカ野球に追いつき」の部分を体現した。
- 日本で馴染みのなかった野手の投手起用が大きな話題になった
- 他の球団も取りやすい作戦になった
- 大量リードを許す展開で、野手登板がネット上で話題になるようになった
Twitterのトレンドでも「野手登板」が挙がるなど、原監督が増田大輝を登板させることによって、ファン認識も大きく変わった。
今後、野手登板がそれなりに見られるようになる可能性が出てきたというのは一歩前進だ。
しかし、私が注目したいのはそこではない。
日本発の「アメリカ野球を追い越せ」にあたる采配だ。
日本発の野球になり得るかもしれない「ツーストライクからの投手交代」
増田大輝の登板は注目を集めたが、もっと注目を集めないといけない采配があると思っている。
それは2ストライクからのピッチャー交代だ。
原監督は2020年シーズンすでに2回も実行している(9月9日現在)
- 8月28日:打者井領2ボール2ストライクで、鍵谷から大江へスイッチ
- 9月7日:ボーア1ボール2ストライクで、大竹から大江へスイッチ
①の場面では1球で三振を奪い、②の場面ではボーアに三塁内野安打を浴びたものの、その後の梅野を打ち取る形で終わった。
それぞれのシチュエーションをまとめた。
ケース | 状況と結果 |
中日戦 | ・3-5のビハインド ・7回2アウト1、3塁 ・2ボール2ストライク ・鍵谷→大江に交代 ・直前のボールは痛烈なファール ・結果:1球で空振り三振 |
阪神戦 | ・3-0のリード ・7回2アウト1、3塁 ・1ボール2ストライク ・大竹→大江に交代 ・直前に大きなファール ・結果はボーア三塁内野安打、梅野三振 |
原監督の采配を見ていると、まずビハインド局面で試すことが多い。
- 若手投手の登板
- ウィーラーのセカンド起用(普段と異なる守備位置での起用)
「まずはビハインドで試して」というのがこの采配にも当てはまるのかは定かではないが、ツーストライクからの投手交代に関してはビハインド時で一度試して、阪神戦ではリード時で試している。
ちなみに、よくファンの中で語り草となっている「外野2人シフトで西岡にセンターオーバーを打たれる場面」もビハインド局面だった。
少し話は逸れたが、この投手起用こそが「アメリカ野球を追い越せ」の序章になるのではないかと思っている。
原監督究極のワンポイントは「アメリカ野球を追い越せ」への序章
2019年3回目の監督就任後、2番に坂本勇人を配置し、2019年シーズンはほとんど2番坂本で貫き通した。
メジャーリーグの2番強打者論を体現した形となっていて、増田大輝の登板もメジャーリーグの流れに沿うものだ。
しかし、ツーストライクからのワンポイントは違う。
明らかに今のアメリカの流れとは逆行するものだし、ワンポイント禁止からは遠く離れている。
むしろ、ワンポイントの中のワンポイントという起用法だ。
「日本発」になる得る原辰徳野球
ここ最近の日本野球を見ていると、アメリカの流れを取り入れているだけのように見えることがあり、心底残念に思っていた。
もちろん取り入れるべきところは取り入れればいいのだが、「日本独自の野球」がなくなっているように思えたからだ。
しかし、前述のワンポイント起用によって、「日本発」が誕生するかもしれない。
過去に今回のような交代がないわけではないが、この采配を日本シリーズなどの大舞台でやろうものなら、瞬く間に注目を浴びるだろう。
そして、もしかしたら、このような継投が当たり前のようになるかもしれない。
ワンポイント廃止へ一石を投じる
これまでの野球界の流れと今の流れを考えると、数年以内にはワンポイントの是非が話題になっていることだろう。
どうなるかは全くわからないが、少なくともツーストライクから投手交代するという采配はワンポイント廃止の流れに逆行している。
- 2番坂本勇人
- 増田大輝の投手起用
などのように、アメリカの作戦を随所に取り入れ、「アメリカ野球に追いつき」を体現している原監督。
だが、ワンポイントに関しては「アメリカ野球を追い越せ」の精神を感じ、今後の日本プロ野球のあり方まで考えさせられる投手起用だった。
少なくとも私は「日本発の作戦」をもっと見たいし、日本野球の力からすれば、日本発の作戦を作り出すことはそう難しくないと考えている。
原辰徳継投「究極のワンポイント」の有用性
仮に以下の2タイプの投手がいたとする。
- カウントは取れるが、決め球に欠けていて、追い込んだ後カウントを悪くしてしまう投手
- ストレートとフォークが絶対的だが、コントロールに欠け、カウントを作るのに苦労する投手
この2つのタイプの投手がいた場合、2ストライクまで①の投手に投げさせるのはある種合理的とも言える。
もちろんリリーフ陣を疲弊させる結果になりかねないので、そう簡単に取れる作戦ではない。
ただ、今後の継投のあり方に可能性を感じる采配であった。
- 左打者のインコースに投げるのが苦手で、決め球スライダーの左投手
- 左打者のインコースカットが得意な右投手
こういった2人がいるケースでも考えられる継投である。
そう簡単にできる作戦ではないが、今後の野球の流れを生む采配の1つになって欲しいと思っている
原辰徳監督采配で「アメリカに追い越せ」を
原辰徳采配研究と言いながら、「さすが原監督」と言われるのは実は寂しいと思っている。
なぜなら、原監督への称賛=原監督が前回退任した2015年以降野球があまり進化していないのではないかと思ってしまうからだ。
もちろん160キロを投げるピッチャーは増えたし、逆方向にほとんどの打者がホームランを打てるようになった。
だが、戦術面もおいて、第二次原政権が終焉した2015年以降進化したと言えるだろうか?
原監督には「アメリカ発ではなく、日本発の作戦」を後世に残してもらいたい。